満員電車の恋



-2-

 それはごそごそと何かを探っているようで、誰かの手なのだと思う。

 一体なにを……。

 電車の走行音に紛れて、微かにジジジッと音がした。

 なんだ、この音は……いつもよく耳にするような……そうゆうたぐいの音。
 そう、これはジッパーの開閉する音だ。

 嫌な予感が頭を過る。
 
 私は少し強引に躯を斜にずらした。
 
 そこで見たものに目を奪われる。

 彼のズボンの中に、男の手が入れられていたからだ。

 彼の躯を知らない男が触れているのかと思うとカーッと頭に血が登る。

 怒りで我を失いそうだった。

 男の手を掴み、罪を断罪しようとした瞬間。

「あぁあっ……!」

 甘い切ないような声音に、私は躯が強張った。

 睫を震わせ、強く眉根を寄せる彼から目が離せない。

 心臓はせわしなくドクドクと早打ちし、躯の熱が一気に上昇するのを、私は感じていた。

 彼の次第に忙しくなるその呼吸でさえ、私を甘露な心地に誘う。

 彼は確かに感じているのだ。
 痴漢の男の手によって。

 男の勃起をお尻に押し付けられ、ペニスを愛撫されているのだと思うと、カッと股間が熱くなった。

「んっ……ふっ……」

 懸命に堪えているようだが、堪えきれずに、甘やかな声を漏らす。

 なまめかしい表情で、頬を染める表情は、艶めいていて、淫媚な雰囲気をかもし出していた。

 胸の鼓動が鳴りやまない。私はアドレナリンが大量に発生したような興奮状態にあった。

 股間がどうしようもなく滾り、自分の意志とは関係なく、勃起していく。

 ダメだ……。このままでは、彼にバレてしまう。

 そう思うのに、彼の悶える表情や、そのさくらんぼうのような艶やかな口脣から、熱い吐息が洩れると、堪えようもない、劣情が私を苛む。

 ああ、私も触りたい。彼の肌理こまやかな白い肌に触れ、その感触を味わいたい。彼を喘がせ、悶えさせて、その無垢な躯に私の痕跡を残してやりたい。

 今まで考えたことのないような劣情が私を突き上げる。

 痴漢が触っていいなら、私が触ってはいけないはずがないとさえ思う。

 だが、それは犯罪なのだと、かろうじて細い一本の理性で、私はどうにか堪えた。

 しかし……。

 急なカーブで、彼の躯が強く私に押し付けられた。私の膨らんだ雄が彼の腹に密着する。

 見上げる彼の眼が、唖然と見開き、その後、嫌悪とも侮蔑とも思えるような眼差しで私を見た。

 彼の冷たい視線が、私を責め、苛む。

 さっきまで、躯中を巡っていた熱い血が、急激に冷めていく……。

 その瞬間に、私の中の細い理性の糸がぷつりと切れた。

 こんな風に、ずっと彼に蔑まれるくらいなら、犯罪者になっても、彼に触れたいと……。

 私は彼のシャツの中に手を入れて、その素肌に触れる。

 絹のような、滑らかな肌触りは、予想以上に気持ちが良かった。

 私に向けられていた嫌悪の眼差しは、驚愕に見開かれ、怯えるように揺れた。

 私は彼の感触を味わうようにゆっくりと、その肌を撫で回す。

 ああ、こんなに気持ちのいい肌触りは初めてだ……。

 恍惚に酔いしれながら、腹部、脇腹、肋骨と、その肌を這っていく。

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